「インプラントって、どれくらい長持ちするの?」
「費用もかかるし、一生ものだと聞いたけど、本当にそうなの?」
そんなご質問をよくいただきます。実は「インプラントの寿命」と一口に言っても、定義や条件によって変わります。この記事では、論文などを引用しながら「インプラントの寿命とは何を指すのか、どのくらいか」「長持ちさせるために患者さんと当院が取り組んでいること」を詳しく解説します。
このページの内容
①インプラントの「寿命」とは何か?
・「寿命=いつまで機能する状態か」の定義

インプラントは、あごの骨に埋め込む「フィクスチャー(=人工歯根)」と、その上にかぶせる「上部構造(=被せ物)」で構成されています。一般的に“インプラントの寿命”というと、このフィクスチャーと骨がどれだけ長く結合し続けるかや、被せ物が問題なく噛める状態でどれだけ保てるかを指します。
①「インプラント自体が歯槽骨としっかり結合している状態を維持できる年数」
②「上部構造(被せもの)や骨の状態を含めて、咀嚼機能を問題なく果たせる年数」
③「プラント周囲炎など臨床的なトラブルが起きず、最終的に撤去・再埋入が必要になるまでの期間」
・論文から読み解くインプラントの寿命の目安
① Pjeturssonら(2012年)のシステマティックレビュー※1
10年間の生存率は約95%、15年間で約90%と報告。
ただし、患者背景(喫煙・糖尿病など)や術式、メンテナンス頻度によってばらつきあり。
② Buserら(2012年)の長期追跡研究※2

よく管理された症例では20年以上問題なく機能するケースが複数報告されている。
・「使えなくなる(失敗)」とは?
インプラントと骨のフィクスチャー(歯根部分)の結合が失われること
いわゆる「インプラント脱落」
「インプラント周囲炎」などの炎症が進行し、骨吸収が進んで安定を失う状態
上部構造の破損だけでなく、そもそも咀嚼機能を維持できなくなることも含む
Albrektsson基準(1986年)※3
埋入後1年で骨レベルの喪失が1.5mm以下、以降年間0.2mm以下であれば「成功」と見なす。
②インプラントの寿命が短くなる主な原因
セルフ・プロフェッショナルケア不足
- プラークコントロールが不十分 → インプラント周囲炎を招く
- 定期的なメインテナンスを受けず放置 → 初期の骨吸収を見逃す
生活習慣的リスク
- 喫煙者、コントロール不良の糖尿病など全身疾患の影響
- 歯ぎしり/食いしばりなど強い咬合力がかかる
治療計画・埋入手術の問題
- 埋入が浅い・角度がずれている → 骨との接触面積が少なく、初期固定が不十分
- インプラントと天然歯をブリッジなどで繋いでいる → 偏った咬合負担で一方に過剰応力がかかりやすい
- 骨造成が不十分/骨密度が低い部位に無理に埋入 → 骨吸収リスクが高まる
- 上部構造の設計・素材トラブル
- セラミックの破損や緩み → 噛む度にマイクロギャップから菌が侵入
- アタッチメント部の緩み → 清掃不良になりやすい部位ができる
③長持ちさせるために患者さんができること
1.“特殊なインプラント専用ケア”は不要
基本は「天然歯を守るために行うケア」と同じ
デンタルフロス・歯間ブラシ・超音波スケーラーなどを使い、インプラント周囲にプラークを残さない
ブラッシングの際は、インプラント部と歯肉境界を意識して優しく当てる
2 .定期メインテナンスの受診
・3~6ヶ月ごとにプロによるクリーニング+定期的なレントゲンチェック
・もしall-on-4など複数本で1つの上部構造を支えていて取り外しが必要な場合は、歯科医院で外してクリーニング
3 .マウスピース(ナイトガード)の使用
歯ぎしり・食いしばりによる過大な咬合力を緩和
4 .喫煙・生活習慣の見直し
禁煙や血糖コントロールなど全身管理も忘れずに
5 .「他の天然歯と同じように守る」という意識
インプラントだからといって特別なケアを求められるわけではなく、自分の残っている歯を守るための習慣を身につければok
④クリニック側(当院)が取り組んでいること

1 .必要最低限の本数・最適なポジションへの埋入
過剰本数を避け、顎骨の強い部位へ入れることで長期的な安定を図る
骨量や咬合ラインを術前に綿密にシミュレーション(CTガイドサージェリー)
2 .痛みの少ない治療+快適な診療環境

局所麻酔だけでなく、希望があれば静脈内鎮静法を併用し、術中の不快感を極力抑えることで、計画通りに治療を進めます。
型取りはお口の中をスキャンして行うため、従来の粘土のような材料は使用しません
→ 嘔吐反射がある方でも、安心して治療を受けていたダクことができ、適合のいい被せ物を作成することが可能です
3 .他の歯の将来的リスクを考慮した治療計画
今の部位だけに注目せず、「隣在歯が将来ダメになったらどうするか?」を患者さんと一緒に検討
必要であれば、今は削らず経過観察しておき、他の治療をまとめて行う選択肢も提示
「現時点でインプラントを入れるべきか」「後からまとめて治療すべきか」を丁寧にカウンセリング
4 .術後のフォロー体制
術後1か月・3か月・6か月と定期チェックを徹底
異常があれば迅速に対応し、早期にマイナートラブルを修正
5 .万が一、他の歯が悪化してもインプラントを守る対応
周囲の天然歯が虫歯や歯周病になったときは、すぐにケアを行うことで、
インプラントの部位を含めた咬合のバランスを維持
もし天然歯側の重度トラブルで噛み合わせが大きく変わった場合、必要に応じてインプラントの上部構造を調整
⑤まとめ
・インプラントの寿命=「脱落や周囲炎などで咀嚼機能を失うまでの期間」を指す
論文では10~20年程度の生存率が95%前後とされるが、個人差あり
・寿命を左右する要因は「セルフケア・生活習慣」「埋入手術の質」「上部構造設計」など多岐にわたる
浅い埋入や天然歯との過度な連結は、インプラントが早期にグラつく原因になりやすい
・ケアは「天然歯と同じように守ること」が基本
ブラッシング、フロス、歯間ブラシ、定期メインテナンスを欠かさない
all-on-4など複数本で支える場合は、外して歯科医院で内部清掃が必須
・当院では「必要最低限の本数を最適ポジションに埋入」「痛みを抑えた治療」「他の歯も考慮した治療計画」を重視
他の歯が将来的にダメになれば、インプラントも負担がかかってしまうため、包括的に診ることを心がけています
・まずはカウンセリングでご相談を
「今すぐインプラントが必要か」「他の歯とまとめて治療すべきか」「メンテナンス頻度は?」など、
お一人おひとりの状態に合わせて最適なプランをご提案します。
参考文献
- Pjetursson BE, et al. “A systematic review of the survival and complication rates of implant-supported fixed dental prostheses.” Clinical Oral Implants Research. 2012;23(Suppl. 6):22–38.
- Buser D, et al. “20-year follow-up of a prospective multicenter study on implants with submerged healing.” Journal of Dental Research. 2012; 91(11):1074–1080.
- Albrektsson T, et al. “Long-term follow-up of osseointegrated implants: a survey of Swedish multicenter study.” Clinical Oral Implants Research. 1986; Suppl 1:11–25.
※本記事はアネックスデンタルクリニック・矯正歯科 院長 岡本 大典 が監修しています。
